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からだの不思議
今からでもからだを大切にしたいとの思いで
森 正敬先生(ハンドルネーム:げのむ様)に
お願いし、「げのむトーク」を連載いたします。
No53
げのむトーク

 アスピリンは血液サラサラにもドロドロにも働く


 娘: 前回、血液が固まりやすくなりすぎると、心筋梗塞や脳梗塞などの

  危険が大きくなるという話だったけど、どうすれば予防できるの?

 父: まず「生活習慣」を改善することが大切だが、それでも

  血液凝固能が高すぎるときには、「抗血栓薬」とよばれる薬を

  用いることになる。薬の一つはすでに勉強したけど、覚えている?

 娘: 「ワルファリン」だね。血液凝固に必要な「ビタミンK」の働きを抑えて、

  血液凝固を抑えるのね。

 父: 繰り返しになるが、血液凝固には「血小板凝集」と、

  「血液凝固因子の活性化」による「フィブリン線維(繊維)形成」の

  二つの段階が必要だ。したがって、血液凝固を抑えるには、

  このうちのどちらかの段階を抑えればよい。ワルファリンなどの

  「血液凝固阻害薬(抗凝固薬)」は、フィブリン線維形成を抑える

  ことによって、血液凝固を抑える。しかし、量が多すぎると、脳出血

  などのリスクが高まる。

 娘: ワルファリンの量を決めるのが難しそうね。

 父: そのとおり。病院では絶えず血液凝固能を調べながら、使う量を

  細かく調節しているが、これが結構難しい。

 娘: フィブリン線維形成を抑える薬は、ほかにもあるの?

 父: いろいろあるが、「ヘパリン」がよく知られている。ヘパリンは、

  体内で血液凝固の調節に働いている多糖(詳しくは「酸性ムコ多糖」)で、

  心臓や脳や肺の「血栓症」や「栓塞症」の予防や治療に使われる。

 娘: 血栓症と栓塞症はどう違うの?

 父: 「血栓症」は動脈硬化を起こした血管に血栓が出来て、血管が

  狭くなる病気で、「栓塞症」は。心臓などに出来た血栓がはがれて、

  脳や心臓や肺などの血管に詰まる病気だ。

 娘: ヘパリンはどうして効くの?

 父: ちょっと複雑だが、血液凝固因子の一つである「トロンビン」

  (第51回)の活性を阻害する。ヘパリンは腸での吸収が大変悪いので、

  飲んでも効果がなく、注射が必要だ。

  娘: では、血小板凝集を抑える薬はあるの?

 父: こちらもいろいろあり、「血小板凝集抑制薬」または「抗血小板薬」と

  よばれる。もっともよく用いられるのは「アスピリン」だ。

  娘: あれっ! アスピリンは「抗炎症薬」でしょう? 炎症を抑えるのと、

  血小板凝集を抑えるのと、関係があるの?

 父: よい質問だ。おおいに関係がある。炎症時には血小板凝集が

  促進されるので、アスピリンはその両方を抑える。しかし、炎症を

  抑えるよりはかなり少ない量で、血小板凝集を抑えることができ、

  「低容量アスピリン」などとよばれている。

 娘: 低容量アスピリンはよく用いられているようだけど、安全なの?

 父: それが問題なのだ。アスピリンの血小板凝集抑制作用が

  強すぎると、出血しやすくなり、「脳出血」などのリスクが高くなる。

  さらにややこしいことに、アスピリンは血小板凝集を抑制する

  作用に加えて、逆に凝集を促進する作用があるのだ。

 娘: 血液をサラサラにすると思えば、どろどろにもするということ? 

  いったいどうなっているの?

 父: 血小板凝集は、おもに「トロンボキサン」と「プロスタグランジンI2」

  (「プロスタサイクリン」ともいう)という、二つの物質のよって

  調節されている。トロンボキサンは血小板凝集を促進する

  ”血液ドロドロ”化物質で、一方、プロスタグランジンI2は血小板凝集を

  抑制する”血液サラサラ”化物質だ。

 娘: それで、アスピリンはどう関係するの?

 父: 低容量アスピリンはトロンボキサン合成を阻害して、血小板凝集を

  抑え、”血液サラサラ”にする。ところが、少し多くなると

  プロスタグランジンI2合成を阻害し、血液サラサラ化の効果がなくなる。

  さらにドロドロ化する可能性もある。

 娘: ややこしいね。そうすると、アスピリンも安全な薬といえないね。

 父: そのとおり。低容量アスピリンも”両刃の剣”で、効果と副作用

  (出血など)のどちらが大きいか、議論がある。いずれにしても、

  日本は(アメリカでも)低容量アスピリンを使いすぎだと思う。

  本当に必要かどうか見直すことが大切だ。