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からだの不思議
今からでもからだを大切にしたいとの思いで
森 正敬先生(ハンドルネーム:げのむ様)に
お願いし、「げのむトーク」を連載いたします。
No54
げのむトーク

線溶:血栓を溶かすしくみ


 今日は血液凝固に続いて、血栓を溶かすしくみです。


 娘: 正常な血管でも、絶えず血液凝固が起こり、血栓が出来ているという話だけど、
    血栓がどんどん増えると困るよね。血栓はその後
どうなるの?

 父: すごくいい疑問だ。血管の傷が治ったら、役目を終えた血栓は溶かす必要がある。
    このしくみを「線維素溶解」というが、普通は略して
「線溶」という。
    線維素(繊維素)とはフィブリンのことだ。さて
血栓は何からできるか覚えている?

 娘: 血小板が凝集して、それにフィブリン線維が絡み付いて出来るのでしょう?

 父: そのとおり。それでは、血栓を溶かすのはどうすればよいと思う? 
     「線維素溶解」という言葉に答えが含まれているよ。

 娘: あっ分かった! フィブリン線維を溶かすのね? 
    フィブリンは
タンパク質だから、タンパク質分解酵素で分解するのでしょう?

 父: すごーい! フィブリンを分解するのは「プラスミン」という
      「タンパク質分解酵素(プロテアーゼ)」だ。

 娘: プラスミンがフィブリン線維を溶かすことは分かったけど、
      いつもプラスミンが働いていると、血栓がすぐに溶けて困らない?

 父: またまたよい質問だ。プラスミンが出来つつある血栓をどんどん溶かすと、
    血栓がちゃんと出来なくて、出血しやすくなって
困ることになるな。
    実は、プラスミンの活性は厳密に調節されている。

 娘: そうだろうと思った。では、どんなしくみなの?

 父: 二つのしくみがある。
    一つは、プラスミンは、通常血液中で
「プラスミノーゲン」という活性のない
    前駆体タンパク質として存在し、
必要なときにプラスミンに転換されて働く。
    もう一つは、プラスミンに
対する「阻害タンパク質」が存在し、
    これがプラスミンの活性を
調節している。

 娘: 一番目のしくみだけど、活性のないプラスミノーゲンから活性のある
    プラスミンになるのは、どんな反応なの?

 父: これもタンパク質分解反応だ。
    「組織型プラスミノーゲン
アクチベータ(tPA)」がプラスミノーゲンを
    切断してプラスミンが出来る。
「ウロキナーゼ」という酵素も、
    組織型プラスミノーゲンアクチベータと
同じような働きをする。

 娘: ウロキナーゼは聞いたことがあるような気がするけど、 
    尿(ウリン、ウロ)と関係があるの?

 父: そうなのだ。
    ウロキナーゼは最初尿から見つかったことから
名前が付けられたが、
    その後、もともとは血中に存在し、それが
尿に漏れ出ることが分かった。

 娘: 血液凝固は数段階のタンパク質分解反応が連続して起こるが、
    線溶系は二段階のタンパク質分解反応と考えていいの?

 父: そのとおり。タンパク質分解には、タンパク質をバラバラに分解する場合と、
    
12箇所で切断して活性化する場合があるが、血液凝固系も線溶系も
    もちろん後のほうだ。専門的には
”タンパク質切断によるプロセシング”と呼ばれる。

 娘: タンパク質分解のイメージが変わったわ! ところで、
       線溶系の酵素は血栓症の治療に使えそうだけど、どうなの?

 父: 今日もさえているね! 「急性心筋梗塞」や「脳血栓症」の「血栓溶解薬」と
    して組織型プラスミンーゲンアクチベータ(tPA)が
よく用いられる。

 娘: tPAはタンパク質だから、注射が必要ね。

 父: そのとおり。
    tPAのおかげで多くの人の命が救われているが、
時間との勝負だ。
    心筋梗塞の場合は
6時間以内、脳梗塞の場合は3時間以内に投与する必要がある。
    それを過ぎると、障害が戻らなくなり、
回復が望めない。しかも、
    出血による合併症のリスクが大きくなるので、
正しい診断が必須だ。

 娘: この話は、最近テレビでやっていたよ。
    早く診断して、早く治療する
ことが大切なのね。ところで、
    納豆に含まれる「ナットウキナーゼ」
という酵素が、
    血栓を溶かす働きがあるのでしょう?(第
50回)

 父: よく覚えているね! ナットウキナーゼは納豆菌が作る酵素タンパク質で、
    tPAやウロキナーゼと同じように、プラスミノーゲンを
プラスミンに転換する
    活性を持ち、「血液サラサラ効果」がある
いわれている。

 娘: うれしい話だけど、食物中のナットウキナーゼは腸で吸収されるの?

 父: それが問題だ。
    一般的には、タンパク質は胃や腸の消化酵素で
アミノ酸に分解されて吸収され、
    タンパク質のままで吸収されることはない。
しかし、タンパク質によっては、
    そのごく一部がそのままの形で吸収される
のではないかと考えられる。

娘: 今日は血栓溶解のしくみについて勉強したけど、
   体のしくみは
ほんとに不思議で、よく出来ているね!