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からだの不思議
今からでもからだを大切にしたいとの思いで
森 正敬先生(ハンドルネーム:げのむ様)に
お願いし、「げのむトーク」を連載いたします。
No71
げのむトーク

エリスロポエチン:スポーツ選手が高地トレーニングをする理由
父: 前回は、「赤血球数」の質問だったね。男子で約500万/μL
  (マイクロリットル)、女子で約450万/μLだ。
  リットル(L)あたりに直すと、男子で5兆個で、血液を5Lとすると、
  男子の赤血球は25兆個ということになる。

娘: すご〜い! 「ヒトの細胞数」は60〜100兆個と聞いたけど、
  赤血球だけどもその数分の1になるのね。

父: そのとおりだ。しかし、赤血球はちょっと特殊だよ。
  普通の細胞よりかなり小さく、円盤状で中央がへこんだ形を
  しているね。どうしてこんな形をしているか知っている?

娘: うん 知っているよ。「酸素」を結合したり離したりしやすい
  ためでしょう?

父: 丸い細胞だと、酸素が細胞の中まで拡散するのに
  時間がかかり、酸素をつけたり離したりするのが
  間に合わなくなるね。赤血球の直径は8μm
  (マイクロメートル)だが、「毛細血管」の直径は知っている?

娘: はっきりは知らないけど、テレビで赤血球が毛細血管の壁を
  こするようにして流れるのを見たので、同じくらいでしょう?

父: すごい。そのとおり。赤血球が毛細血管の壁に接触しながら
  流れるので、すばやい「ガス交換」が出来るのだ。ガス交換とは、
  「酸素」と「炭酸ガス」を交換することを言う。酸素を組織に
  供給すると同時に、組織で生じた炭酸ガスを肺に運んで排出する。

娘: 炭酸ガスも「ヘモグロビン」に結合して運ばれるの?

父: そうではない。炭酸ガスのほとんどは「重炭酸イオン」の形で
  血漿中を運ばれる。しかしこのときに、赤血球に存在する酵素が
  大切な働きをする。

娘: すると、組織で炭酸ガスを重炭酸イオンに変えて肺に運び、
  肺では重炭酸イオンをふたたび炭酸ガスに変えて捨てるのね。
  ずいぶん忙しいわね。ところで、赤血球には「核」がないと
  聞いたけど、どうして?

父: 核だけでなく、「ミトコンドリア」や「小胞体」などの
  「細胞小器官」もなく、ヘモグロビンを含む袋と考えてよいくらいだ。
  「骨髄」で赤血球が出来てくる間に、核などを捨てることが
  分かっている。赤血球は核がないから、分裂したり増殖する
  ことはなく、「120日」働いた後に壊される運命にある(第68回)。

娘: ミトコンドリアがないと「エネルギー産生」が
  出来ないのではないの?

父: よい質問だ。「グルコース」を「嫌気的」に「乳酸」に分解する
  「解糖経路」でも「ATP」が出来るので、この経路を使っている。

娘: そういえば、「嫌気的解糖」でもATPが出来るが、ミトコンドリアの
  酸化的なATP合成に比べて、効率が悪いと習ったよ。ところで、
  赤血球は骨髄でどのようにして作られるの?

父: 骨髄にはすべての血液細胞の元となる「多能性幹細胞」があり、
  これから「骨髄性幹細胞」や「網状赤血球」などを経て、赤血球が
  作られる。この赤血球形成には「エリスロポエチン」とよばれる
  ホルモン様のタンパク質が働く。

娘: エリスロポエチンはスポーツ選手の「ドーピング」で
  問題になっているのでは?


父: よく知っているね。エリスロポエチンを注射すると赤血球が増え、
  酸素運搬力が増加し、運動に有利になる。高い山に登ると
  呼吸が苦しくなるが、数日すると慣れるよね。これは、
  エリスロポエチンが分泌されて赤血球が増えるためだ。

娘: それで分かったわ! スポーツ選手が試合の前に
  「高地トレーニング」をするのはそのためね!

父: エリスロポエチンは主に「腎臓」で作られるので、
  重い腎臓障害ではエリスロポエチンが不足し、「腎性貧血」が起こる。
  この治療にはエリスロポエチンが用いられる。
  「遺伝子組み換えエリスロポエチン」が作られている。
  タンパク質なので、注射する必要がある。

娘: 腎臓は尿を作るだけの臓器と思っていたけど、
  ホルモン様物質を作っているのはびっくりね!